院長からのご挨拶

宮本町中央診療所



性器ヘルペスの感染による出産への影響 
「暮らしと健康」2003年1月1日(保健同人社)

Q 性器ヘルペスの再発をくり返している。出産は望めないか
27歳、女性。以前、性器ヘルペスに感染し、今は4〜6か月の間隔で再発をくり返しています。将来は結婚し、子どもを産みたいと考えているのですが、最近、妊娠中に性器ヘルペスに感染すると、子どもにも感染すると聞きました。これは妊娠中に初めて感染した人にだけあてはまることなのでしょうか。すでに感染している人は子どもに感染させる危険はないということでしょうか。危険があるとすれば、子どもは産むべきでないのでしょうか。新生児ヘルペスは、死亡率の高い病気とも聞いたため心配です。
(東京都 U・I)

A 分娩時に性器ヘルペスができている場合は、
帝王切開による出産をすすめる

相談者は性器ヘルペスの再発をくり返しておられるそうですが、そのつど、身体的苦痛はもちろん精神的苦痛も強いられ、「私は結婚できるのかしら」「子どもを産んでも大丈夫なのかしら」と思い悩まれていることでしょう。

確かに妊婦が性器ヘルペスに感染していると、新生児にヘルペスをうつしてしまうことがあり、しばしば致命的な経過をたどることがあります。しかし今日では、分娩(ぶんべん)の管理や新生児の管理をしっかり行えば、新生児ヘルペスにならず、無事に出産できるようになってきています。

わが国の新生児ヘルペスの発生頻度は、1〜2万人の出生に対し1人程度で、必ずしも多くはありません。しかし、新生児ヘルペスの約30%は、死にいたるたいへん怖い病気です。

妊婦が初感染で、分娩時に産道においてウイルスに感染した新生児は、生まれたばかりで免疫能が十分に備わっていないため、全身にウイルスが拡がり、急速に死の転帰をとることがあります。もし助かっても、脳などに重大な後遺症が残ります。

一方、妊婦が再発の場合、新生児はウイルスに対して免疫を保有しているため、重体に陥ることはあまりないとされています。

母子感染の危険性は、妊婦が初感染の場合は50%と非常に高く、再発の場合では0〜5%程度といわれています。

以上のことより、母子感染の予防上、分娩時に性器ヘルペスができている場合は、帝王切開で子どもを産むことがすすめられます。さらに安全性を考え、分娩時にはたとえヘルペスが外見上治っていても、次の場合も帝王切開をすすめられます。

. 初感染の人でヘルペスが発症してから1か月以内。

. 再発の人でヘルペスが発症してから1週間以内。

これ以外の場合は、ふつうの分娩で子どもを産んでよいとされています。

新生児ヘルペスの発症は生後3週間以内がほとんどですが、新生児については少なくとも生後1週間以上、入院のうえ、管理することになっています。たとえ新生児ヘルペスにかかっても予想していたのであれば、迅速に対応でき、早期に治療を始められ、重症にならずに済むでしょう。

さて、相談者は性器ヘルペスの再発をくり返しているわけですが、体力の低下やストレス、セックス、月経などが再発の引き金となります。

したがって、現在のところ再発防止にはストレスをさけた健康なライフスタイルを心がけましょう。そして日頃からヘルペスについていろいろと相談できる専門医を見つけ、現在の身体的状況を把握しておくことが望まれます。

もし再発の兆候があれば、なるべく早めに抗ウイルス剤を投与してもらい、精神的な負担を少しでもなくしておきましょう。再発するヘルペスは、適切な治療を行っておけば、ある程度コントロールできる病気です。

最期に相談者が、近い将来、結婚され健康な子どもに恵まれ、幸せな家庭を築かれることをお祈りいたします。


回答者
宮本町中央診療所 泌尿器科・皮膚科院長
尾上泰彦