院長からのご挨拶

宮本町中央診療所



梅毒の可能性 「暮らしと健康」2002年11月1日(保健同人社)

Q 性交渉後、頬骨あたりににきびのようなものができた
24歳、男性。身長174cm、体重56kg。喫煙あり。
梅毒の可能性についてお尋ねします。 3週間ほど前に性交渉があり、その2、3日後、頬骨(ほおぼね)あたりににきびのようなものができました。 痛みはなかったのですが、そのうちにただれ、今では治りつつあります。梅毒の初期にも似たような症状があると聞いたため、とても不安です。 梅毒の可能性はあるのでしょうか。また、検査を受けるには、何科へ行けばよいのでしょうか。ちなみに現在は、からだにかゆみを感じるものの、 発疹などは見られません。
(広島県 N・W)

A 梅毒特有の症状はないが、潜伏梅毒の可能性はある。
皮膚科か泌尿器科で検査を。

梅毒の可能性があるか否かのご相談ですが、最初に梅毒の初期の皮膚症状について簡単に説明します。

梅毒とは「トレポネーマ・パリダム」という細長いらせん形の病原体による感染症で、おもに性行為または類似行為によって感染する全身的な性感染症です。
感染後3ヶ月までを第1期梅毒といいます。感染しておよそ3週間して病原体の侵入部位にかたいしこりができてきます。 これを初期硬結(こうけつ)といいます。

初期硬結はやがて中心にびらんや潰瘍(かいよう)をつくり、周囲がかたく盛り上がってきます。これを硬性下疳(こうせいげかん) といいます。
初期硬結、硬性下疳は痛みなどの症状はあまりなく、単発のことがふつうですが、複数できることもあります。男性では冠状溝、包皮、亀頭部あるいは 口唇(こうしん)などによく見られます。やがて足のつけ根などのリンパ節が腫れてきますが、痛みがないのが特徴です。

感染後3ヶ月頃から病原体が、局所から血中に入って増殖し、全身に拡がり第2期梅毒疹が生じます。第2期のもっとも早い時期には梅毒性バラ疹が 現れます。体幹を中心に、顔や手足に見られ、1〜2cm大の目立たない淡紅色斑で自覚症状がなく、数週間後に自然に消えていきます。

感染後約12週間目には丘疹(きゅうしん)性梅毒疹が現れます。この皮疹は、 小豆大からえんどう豆大で赤褐色から赤銅色の皮膚の平らな隆起として、顔、体幹、手足に多発します。

以上が「顕症梅毒」といって皮膚や粘膜に病変を認める場合です。相談者は性交渉後、2、3日して頬骨あたりににきび様の皮膚症状を認めたそうですが、 これは梅毒特有の症状ではないと思います。

しかし、だからといって梅毒に感染していないといとはいえません。というのも、実際は潜伏梅毒といって顕症梅毒のような皮膚症状を認めない場合がたいへん多いからです。


少なくとも性交渉があったのですから、症状のまったくない潜伏梅毒の可能性を考えなくてはいけません。

したがって、相談者には梅毒の血清反応検査を受けることをおすすめします。梅毒血清反応は病原体に感染してから3〜6週間後に陽性化しますから 検査は感染機会から6週間後に受けてください。検査結果は2〜4日後には判明します。相談者の精神的不安は、検査の結果がでるまではなくなりません。もしも検査を受けないでいると いつまでも相談者の心に平和は訪れないでしょう。勇気を出して検査を受けてください。

「何科を受診すればよいか」のおたずねですが、相談者の場合、現在、からだにかゆみを感じるということですから皮膚科を受診することをおすすめします。 あるいは、性感染症の専門医のいる泌尿器科を見つけて受診してもよいでしょう。 最後になりますが、最近、性行動の活発な若者の間に症状の乏しいあるいは症状がまったくない性感染症が増えています。感染していることに気づかないでいると、 将来子どもができなくなることにもなりかねません。梅毒も心配でしょうが、性交渉があったのですから、ほかの性感染症の検査も、この機会にぜひ受けてみてください。


回答者
宮本町中央診療所 泌尿器科・皮膚科院長
尾上泰彦